2005 (265)
2011 (1)
2012 (354)
2013 (600)
(C)東洋経済オンライン
Robert Schiller 1946年生まれ。マサチューセッツ工科大学で経済学博士号取得。著書に『根拠なき熱狂』『アニマルスピリット』。
.
ITバブルの崩壊やサブプライム危機へ警鐘を鳴らしたことで知られるロバート?シラー教授が、バークレイズと共同開発したCAPE株式指数のセミナーで来日。アベノミクスへの評価などを聞いた。
――アベノミクスへの評価は?
最も劇的だったのは、明確な形で拡張的な財政政策を打ち出し、かつ、増税にも着手すると表明したことだ。
日本政府は対GDP(国内総生産)比で世界最大の債務を負っているので財政支出を批判する人が多いが、ケインズ政策によって最悪の事態が避けられてきた面もあるのではないか。一方で、安倍晋三首相は消費増税も行うと明言しており、財政均衡を目指した刺激策といえる。私は、このような債務に優しい刺激策を欧米も採用すべきだ、と主張している。
現在、米国では拡張的な財政政策を提案しても政治的に阻止され、困難な状況にある。「増税」という言葉は忌み嫌われている。世界中で財政緊縮策が広がる中で、日本の積極策がどういう結果になるか注目している。
期待は実現しないと持続しない
──「大胆な金融政策」についてはどう見ますか。
日本銀行は量的緩和の発明者であり、ゼロからマイナスレンジのインフレ率が続いていることを考えると、政策がさらに一歩進んだことは驚くに当たらない。
ケインズ経済学に立ち返れば、「流動性のわな」(ゼロ金利となり、貨幣の需要が無限大になること)に陥ると、金融政策は刺激的な効果を持ちえなくなる。現在の量的緩和策はこれを超えて、長期金利も下げようとする政策だが、やはり金融政策だけでは効果は出ず、財政政策と併せるべきだということになる。
──日本銀行のインフレ目標2%の達成は難しいとの見方も多い。「期待を変える」ことに成功するでしょうか。
「期待」は、経済のダイナミクスへの影響という点で非常に重要だ。ただ、日本で「期待」を変えるには長い年月が必要だ。期待は「実現」しないとその効果が持続しない。ある程度短期間で期待の一部が現実のものになれば、効果が出てくるのではないか。
かつて1929年の大恐慌時にハーバート?フーヴァー大統領は「景気回復はそこまで来ている」と言い続けたが、彼の任期中には回復せず、後に楽観主義に取りつかれていたという評価になり、さらに失望感が広がった。結局、10年経っても恐慌は続き、残念ながらこれを脱したのは戦争によってだった。
スランプの時間が長く続く可能性はあり、アベノミクスは財政拡張でこれを脱しようとしている。
──「アニマルスピリット」(起業家精神)は日本で復活しますか。
アベノミクスの第3の矢に当たる民間投資の活性化が極めて重要だ。これほど長い期間、日本の株価や地価が下がり続けたことのほうがむしろ驚きだ。何もしなくても、アニマルスピリットが戻ってもいい頃だ。自律的回復の時期に来ているのではないか。
──米国で金融政策が出口に向かい、金利が上昇してくれば、住宅市場にマイナスの影響が出るのではないですか。
住宅ローン金利の水準は量的緩和第3弾(QE3)でかつてない低水準になり、住宅市場の回復に寄与した。ただ、ローン金利と住宅市場の動向は必ずしも密接に関係しているわけではない。住宅価格を予測するのは難しい。投機資金も入っている。一部の都市ではバブル的な投機の兆候が起こりつつあるので、金利が上昇すると、投機熱が冷めて急に落ち込むという可能性はある。
──日本の株価についてどう見ますか。
CAPEレシオ(景気循環調整後の1株当たり株価収益率)で見ると、それほど高くない。低い水準から短期間で大きく回復したのでバブルのように見えるが、歴史的にはまだ低水準だ。
(撮影:今井康一 =週刊東洋経済2013年7月6日)
いま日本語で読めるシラー教授の最新刊「アニマルスピリット」はこちら。シラーとアカロフ(2001年受賞)、二人のノーベル経済学賞受賞者が放つ、リーマンショック後の代表作。主流派経済学ではわからなかった、バブルと金融危機の本質をずばり解明した画期的著作です。