前回からの続き。
[男と女のかけひき]
石ころみたいな男の言葉 拾って女は隅へ置く (浅沼登)
男の些細な言葉を、女は拾って頭の片隅にしまっておく。何の気なしに言った一年前、十年前のあなたの言葉を女はきちんと覚えています。男性諸君、お気をつけて。
五分と五分とで仕掛けた上は ひくにひかれぬ身の事情
現代どどいつですが、よみびとしらずです。編者の聞き覚えによるものとして載せられていました。
どちらが仕掛けたとはっきりしていれば、相手を責めつつ身を引くこともできるでしょうに。五分五分ならば、ひくにひかれなくなるのも道理。
嘘も上手に綴ったレター ペロリ切手をなめる舌 (村田紫蘭)
ペロリと舌を出しながら、にやりと笑う女のしたり顔が見えてくるような気がします。
[罪]
ゆうべしたこときれいな雪の どこにかくせば消せるやら (河口さざなみ)
いろんなものを隠して一面真っ白に飾る雪も、心の中のうしろめたさまでもは覆い隠せない。逆に雪の白さがよけいにまぶしくて。
高い敷居をまたいでそっと 罪をはがして着る寝巻 (笹川迷風)
「高い敷居」と「罪をはがして着る」がぴりりと効いて、印象的な句です。外の女と内の女と、二つの世界を行き来する男の罪。そんな簡単に着替えられるつもりというのは男の都合のいい言い訳かもしれません。
[夫婦]
朝寝朝酒朝湯に入れて あとはタンスにある保険 (高井平万坊)
夫を殺すに毒を盛る必要はないそうで。毎日カロリーたっぷり、贅沢三昧の食事を食べさせればよいと聞いたことがあります。
もうひとつ、夫にとって怖い句を。
浮気してても愚痴こぼさずに いる女房もすねに傷 (若林いろは)
韓流ドラマにはまっている妻を持つ夫は安心していていいそうですよ。そういう妻は絶対に浮気をしていないから。
この句は、7775のそれぞれの頭の字を合わせた4文字が、ひとつの単語になっています。この場合、
うわきして…
ぐちこぼさず…
いる女房…
すねに…、で「うぐいす」。これは“折りこみどどいつ”といって、お題として出された四文字の単語を折りこんで作ったものです。昔、『笑点』でもやってたような。あれは57577の和歌だったかな?
たまに逢うからいい人なのよ よけりゃあげますうちの人 (長屋やす)
妻たるもの、このようにどんと鷹揚に構えているのがよろしいでしょう。
この句も折りこみどどいつです。
たまに…
いい人…
よけりゃ…
うちの…、で「たいよう」。
となりの奥さん素敵でしょうと うちのかみさんぬかすこと (長谷川夜舟)
これは女のトリックです。男は決して同意してはなりません。
この世の雑踏ゆくかみさんに 俺と子どもでぶら下がる (吉住義之助)
うーん。これはなんとも。ぶら下がられたかみさんはたまったもんじゃありません。「この世の雑踏ゆくかみさん」はかっこいいけれど。
次回に続く。