2008 (142)
2009 (130)
2010 (94)
2011 (140)
講義は、『1Q84』の2巻の帯文「心から一歩も外に出ないものごとは、この世界にはない。心から外に出ないものごとは、そこに別の世界を造りあげていく。」の解説から始まりました。
先生が話したことをそのままうまく伝えられませんが、村上春樹は、「風の歌を聴け」以来提示し続けてきた世界認識、すなわち、主体(自己)と客体(他者)の関係から存在する「世界」が絶対性のものではなく相対的なものであることを、今度の作品で、極めて自覚的に、また使命感を持って発表したとのこと。帯文でそのことを明確に伝えているとのことでした。(世界の複数性、主体が客体との関係で極度にゆがめられると別の世界が存在する…)
そして村上春樹の認識は、鴎外、漱石が問題にしてきたことと全く一緒であること、すなわち鴎外は、「舞姫」で太田豊太郎の「昨日の是は今日の非なり」の言葉に象徴されるように主体と客体の関係及び、世界の存在の相対性、虚構性(虚偽性)をはっきり意識していたが、漱石も同じように捉えていたし、芥川、太宰、川端、三島もみなそうだった。(これと対抗する立場が、花袋、藤村、志賀らの自然主義の系譜。彼らは主体の絶対性を主張した)そして村上春樹の文学は確実に、鴎外、漱石に連なるとのことでした。