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『告白』-湊かなえ

(2009-04-06 08:30:36) 下一个
 

 湊かなえの『告白』という小説を読んだ。「聖職者」という短編が2007年の第29回小説推理新人賞を受賞したのがこの作家のデビュー作で、その後これを第1章とし6章まで加筆、長編小説として2008年8月に刊行されたのが『告白』である。2008年度の週刊文春ミステリーベストテンで第1位に選ばれている。

 (*以下の文章の中で、小説の結末について触れています。これからこの本を読もうとされる方はご注意下さい。)

 4歳の娘を亡くした中学校の女性教師が、終業式の日、ホームルームで生徒たちに向かって、娘は事故で死んだのではない、殺されたのだと告げる。そして犯人を含めた周囲の人間たちが各章ごとに一人ずつ、モノローグ形式で事件と、事件のその後について語っていく。
 就寝前に布団の中で少しだけ読もうとページを繰ったら止まらなくなってしまった。そのままその夜のうちに読みきってしまう。それほど次から次へと読者の興味を逸らさないエンターテイメントなお話であった。ただ、読み終えた後味は悪い。

 母である教師が娘の復讐のために、法にゆだねることなく、娘を殺した少年たちを追い詰めていく。そしてそれは結果的に幼い命を簡単に奪うことができるような歪んだ人格を育てた犯人の母たちに対する復讐をも果たすことになる。
 ところが実際には少年とその母たちへの復讐となっているにもかかわらず、教師が少年に対して発する言葉は、ひたすら少年たちの自己責任を追及する内容となっていて、教師の行動は大きな矛盾を含んでいる。しかも、教師が犯人である二人の中学生を追い詰めていく手段が、犯人の母親たちとなんら変わることのない子供たちに対する絶対的な影響力の行使によって実行されるので、読み終わっても、事件を生じさせた根本が糾弾され破壊される爽快感を味わうことができない。作品の中に描かれている家庭の場、学校の場は、第三者の客観的な正義や倫理の目に曝されることなく、 感情的な“場の力”によって支配され、閉鎖された空間の中で善悪の区別のない感情が自己増殖していく。家庭なり学校なりにおける正す者の不在、教え導く者の不在といった環境がおそらく少年たちの人格の一端を形成していると思われるが、女性教師は犯人である少年たちを罰するために、彼らを作った家庭や学校の場を利用するのだ。
 すべての章が章ごとに異なる事件の関係者による独白から成り立っているので、全部を読む読者は全体を大局から見渡すことができるが、それぞれの登場人物はそれぞれの主観や感情や論理をぶつけあい或いは交流させることなく、初めから最後まで各々の観念の世界に閉じこもったまま、ただ場の力関係だけで “勝ち負け”が決せられてしまう。

 小説の中で唯一個人の感情を超えた言葉を発する(殺された子供の)父親であり教師である桜宮も、女性教師の復讐劇を止める大きな力とはならない。彼はただ彼女の語りの中で「聖職者」としてその存在を引用されるだけで、姿を現し肉声を発することがない。登場人物たちの行動を支配するのは情緒的に動く母性的な力で、家庭や学校の場を理知的にコントロールし導く理念の欠如、人々に共有されるべき父性的な倫理の不在が個人の想念の増幅を野放しにする。
 この小説の描き出す世界は個人を超えた “社会の倫理”の力を徹頭徹尾排除している。倫理や道徳は神聖なる「聖職」の領域であって、それを語る者は「聖職者」であり、聖職者の言葉は空虚で、弱肉強食を描いた小説内の世界では力を持たない。

 先日、愛知県の中学校で、生徒が数人で、妊娠中の担任教師を流産させる会というのを作り、実際に給食に異物を混入したり、椅子のネジをゆるめたりということをしていたという。この事件を聞いて私はすぐに、この『告白』を思い浮かべた。
 こうした現実からすると、教師の幼い子供をたいした理由もなく殺す『告白』の中の少年たちの感覚は決して特殊なものではないと思われる。『告白』がよく売れ、そのストーリーに夢中になるのも、人の真実の一面を描いているからであると思う。怖ろしいけれど、歪んでいるようだけれども、まるっきり絵空事とも思われない。
 けれど、一方で実世間では、健康的で正常で秩序ある社会を維持しようとする力が強く働いている。私怨による制裁や報復を社会が許さないのも、それを許してしまったら社会の秩序が保てなくなるからだろう。例え社会が(法が)犯罪者に下す罰が被害者やその家族の感情を完璧に満足させるものでないとしても、『告白』のように私的な復讐に走るとしたら、勝敗を決っするのは個人の力や狡猾さということになって、倫理や道徳などそれこそ“絵空事”となってしまうのではないだろうか。


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