夢、ふたつ。
ひとつめ。江戸のような町並みで、二階建ての家と家との間に幅2メートルほどの水路が流れている。建物から水路上に人ひとりが歩けるほどの幅の縁台がせり出していて通路のように水路沿いに続いている。私はそこで釣りをしている。持っているのは竿ではなく、厚みのある細長い布で、その先が水に浸かっている。水の中から何かが強い力でぐいぐいと布を引き込もうとするので、私は引き込まれまいと必死で抵抗する。手伝ってほしいと、隣で竿を垂らしている甥っ子の顔を見るが、彼は知らん顔だ。近くにいる見知らぬ男性も私の様子に気付きながら手を貸そうとしない。強い手ごたえに、これは大物かもしれない、何としても逃したくない、と私は必死で布を掴む。そのうち、引っぱられる力がふっと軽くなり、布を引き上げると、その先の糸には一匹の緑色の蛙が手足を広げてだらんとぶらさがっていた。
釣りを再開する。今度は竿につけられた糸の先にビニールの風呂敷のようなものがついていて、それが水の中で広がって魚を囲い込み針で引っ掛けるという仕組みだ。水は浅くて澄んでいるので魚影がくっきりと見える。こんな仕掛けでは魚を囲んでも捕まえられるものではないと思うが、それでも私は何度も竿を振る。そのうちとうとう、魚を捕らえることができた。バケツに入れて見ると、それは金と銀と白と黑のまだら模様をしていて、溶岩のようにでこぼこした表面をしていた。その毒々しい様子に、私はうれしいようなうれしくないような複雑な気持ちになった。もっと、鮎のような、しゅっとした姿の食べられる魚だったらよかったかもしれない。
ふたつめ。私は弟の一家と山の上の家にいた。雪が降り始める前に山を降りなければならない。私たちは朝早く家を出て歩き始めた。前方の雪が薄く積もったところに別の家族がいるのが見えたと思ったら、彼らの立っている場所に雪がざざざっと押し流されてきた。雪崩か!と一瞬慌てたが、それは除雪車が押し流した雪であった。車道には雪が厚く積もっていた。私は、一段高くなっている山道から車道上の積もった雪の上に飛び降りた。体が埋もれてしまうかもと思ったが、雪は柔らかすぎも硬すぎもせず私の足を受け止めた。続いて、一緒にいた弟の妻の親戚筋にあたる90を越えた老婆も飛び降りた。あっと思ったが、腰が曲がった老婆は私よりずっと軽やかに降り、すたすたと歩き始めた。ただ今度はその小さな体で除雪車の大きなタイヤのすぐ後ろを歩くので、危なっかしくて冷や冷やさせられた。
いつの間にか誰もいなくなっていた。私は雪のない車道をひとりで下っていく。どこからか、「峰の雪があんなに奇妙な形をしている。今に大雪が降るだろう。」という声が聞こえ、遠くの峰を見やると、確かに雪が不安定な形で乘っかている。その目をそのまま空に移すと、暗灰色の厚い雲が空一面にぐるぐると渦巻いている。なんて恐ろしい雲だろう。そのうち、もこもこした雲が押し合いへし合いして押し広げられた雲の穴から濃紺の空が見えた。青空ではなく夜空のような濃紺である。雲はものすごい速さでぐるぐると動き続け、穴もそれにつれて移動する。穴の中の濃紺の空に小さな白い爆発が起こり、稲妻のような光が走った。稲妻は遠く穴の向こうの空の中で光るだけで、雲の下までは届かない。けれど、何度も続くその光の衝撃に、私は思わず「ああ、すごい!」と大きな歓声をあげた。
最近、重苦しい嫌な夢ばかり続いていたので、久しぶりに書き留めたくなるような夢を見ることができてうれしい。大吉というわけにはいかないけれど、悪くない夢である。