13.5nmと非常に短い波長を用いる次世代露光技術のEUV(extreme ultraviolet)。22nm世代以降の最先端半導体の製造に向けて,研究開発が進められている技術です。このEUV露光技術は,極めて短い線幅の 半導体を実現できるため,「究極の露光技術」とされてきました。その一方で,既存の露光技術に比べて,量産化に向けた技術障壁が格段に上がるため,これま では「夢」の技術の域を出ませんでした。その技術障壁の高さは,従来の露光技術に比べて,光源波長がケタ違いに短くなることに表れています。1980年代 以降,露光装置の光源の種類は,波長436nmのg線,同365nmのi線,同248nmのKrFレーザ,同193nmのArFレーザと,波長を徐々に短 くしながら進化してきました。現在,最先端の半導体製造には液浸のArFレーザ装置が使われています。これがEUV露光に切り替わることは,波長がケタ違 いに短くなることを意味します。これに伴い,露光装置は巨大になり,内部構成も従来とは大きく変わります。そのため,量産適用は容易ではないと見られてき ました。
このEUV露光技術をめぐる状況がここにきて,明らかに変化し始めています。EUVの露光技術そのものが進展してきていること, およびそれを使う半導体メーカー側がEUVの採用を本気で検討し始めたことです。2010年10月17~20日に神戸で開催されたEUV関連の国際会議 「2010 International Symposium on Extreme Ultraviolet Lithography(EUVL)」では,EUV露光関連で大きな進展がありました。EUV露光装置のベンダーであるオランダASML社がつい に,EUV露光装置のベータ機を1台,顧客に出荷したことを発表したのです。
ここで言うEUV露光装置のベータ機とは,スループット以外の仕様が,実際の商用機と同じものです。これを購入するというのは,半導体メーカー側がいよ いよ本気になったことを意味しているといえるでしょう。2011年内には,さらに5台のベータ機が半導体メーカーに納入される計画となっています。最近, 出荷された1台を含めた計6台のEUV露光装置は,すべて異なるユーザーに向けられるようです。つまり,6社の顧客が使うことを意味するわけです。そし て,2012年には,量産対応機が出荷される計画であり,この量産対応機については,既に6社から計8台の受注が入っているそうです。
2010 EUVLのコンファレンス・チェアを務めた,半導体先端テクノロジーズ(Selete)取締役第三研究部長の森一朗氏は,最近の状況の変化をこう説明して くれました。「正直,2年前は装置のユーザー,すなわち半導体メーカー側がEUVを全く信じていなかった。状況が変わったのは,この半年。その理由は二つ ある。一つは,EUVの技術開発そのものが着実に進展していること。そして,より大きな理由と言えるのが,現在,液浸ArFレーザのダブル・パターニング 技術を手掛けている半導体メーカーの技術者の人たちが,その次のトリプル・パターニングやクアッド・パターニングではさすがにコスト的に見合わない,と確 信したこと。トリプル・パターニングやクアッド・パターニングの技術を導入しようとすると,エッチングなど露光周りの装置をそうしたパターニング技術に対 応させ直す必要がある。こうしたコストが半端ではない。そうであれば,EUV露光技術を導入するのが現実的と判断した」といいます。
EUV露光装置の価格は,そうは言っても,1台当たり8000万~1億米ドルになるようです。「1米ドル=80円」と仮定しても,1台当たり64億 円~80億円もする計算になります。露光業界の関係者の中には「これだけ高い装置を購入したり,発注をしていることが,半導体メーカーの本気度を何より象 徴している。このご時世,確信の持てない技術にこれだけの資金を投入できるメーカーはどこにもない」。私はこの言葉が現在のEUV技術の状況を如実に表し ていると思います。EUV技術がいよいよ立ち上がりそうです。