Takさんのお世話でこの展覧会のブロガー内覧会に参加した。ブリヂストン美術館でこのような会が開かれるのは初めてとのことであるが、素晴らしい企画だったと思う。島田館長以下、沢山の館員の方が遅くまでブロガーたちにつき合っていただき、ブロガーが美術館関係者とface-to-faceで話をすることができたことが一番良かったと思う。両者にとって実り多い時間だったのではなかろうか。
講義室で、今回の展覧会の目的や構成についてのプレゼンテーションを受けた。ブリヂストン財団の東京と久留米の二つの美術館のスターが勢ぞろいし、テーマ別に展示したとのこと。
その雰囲気は、いくつかのスライド写真で味わっていただきたい。
以下、会場の見て歩き。【自画像】の部屋では、マネ、セザンヌ、藤島武二、青木繁、坂本繁二郎、中村彝、小出楢重、古賀春江などおなじみの顔が勢ぞろい。マイベストは、青木繁だが、会場でアンケートをとったら面白いのではなかろうか。
【肖像画】の部屋は、【ヌード】の部屋と一緒。どうしても後者の方に目が行ってしまうのは凡人の常。とくに、和田英作の《チューリップ》と岡田三郎助の《水浴の前》のコーナーは見事↓。
ここで、私「とら」のつぶやき。少し前に、小学生低学年の孫娘を連れて、新国の「ルノワール展」に行ったことがある。ルノワールの名画にいたく感心していた彼女が、例の豊満な裸体画のコーナーにくると、恥ずかしそうに下を向いてしまった(記事は
こちら)。小学生は大切な将来の美術ファンである。今回の展覧会でも、ルノワールの愛らしい《少女》と正面を向いた《すわる水浴の女》が同室しているのは、鈍感だと感じるかもしれない。
【モデル】の部屋は、コロー、?锴遢x、藤島武二、マティス、坂本繁二郎の名作の競演。
【レジャー】の部屋では、いくつか初見の作品があった。とくに興味をそそられたのは、ロートレックの《サーカスの舞台裏》↓。観客のいない場所での馬と道化師たちの親密な世界をこのようにヴィヴィッドに描くのは、ロートレックの真骨頂だろう。
【物語】の横長の部屋には、青木繁の名作が所狭しとばかりに並んでいる。《天平時代》、《大穴牟知知命》《海の幸》、《わだつみのいろこの宮》である。藤島武二の《天平の面影》も健闘していたが、外国勢でこの日本勢に対抗できるのはルオーの《郊外のキリスト》くらいだろう。
ここで、お目当ての【新収蔵作品室】にはいる。まずは、カイユボットの《ピアノを弾く若い男》↓。
1876年の第2回印象派展に、有名なオルセーの《床削りの人々》と一緒に出品された7点の若描きの作品の一つであるとのこと。国外の所蔵家からオークションを経ずに購入されたと伺った。モデルは、弟マーシャル、場所はパリ、ミロメニル通りの自宅。光の効果がうまくとらえられている。楽譜が読めるような気がしたので、美術館の方に「曲はなんでしょうか」という難しい質問をしたところ、「マルモンテル」という人名が返ってきたが、私には猫に小判の回答だった。
そこで、Wikipediaを検索すると、マルモンテル(Marmontel, Antoine François 1816~1898)はパリ音楽院教授として鍵盤楽器を担当。有能で想像力豊かな教師として名を揚げた。多くの門弟のうち、特筆すべき存在として、ジョルジュ・ビゼーやクロード・ドビュッシーがいる。作曲家としては、夜想曲やロマンスなどの小品に加えて、200以上に上る教育作品を遺したとのこと。したがって、カイユボットの弟が弾いているのは、こういった曲の一つだったのだろう。 カイユボット(1848年8月19日 - 1894年2月21日)は印象派のスポンサーとして有名であるが、彼自身の画も素晴らしい。あまり長生きしなかったこともあって、彼の全作品数はそれほど多くないようである。彼が遺した作品を国に寄贈しようとしたが、当時それほど有名でなかった印象派の作品を受け取ることに時間がかかったことも有名な話である。
私自身印象深かったのは、シカゴ美術館のギャラリー正面に、ドーンと、カイユボットの《パリの通り、雨》が飾られていたことである(その時のHP記事は
こちら)。今回、ブリヂストン美術館が入手された《ピアノを弾く若い男》も超有名で、Wikipediaにも画像が載っている。この作品を、いち早く見られて本当に良かった。是非早めにご覧になることをお勧めする。
もう一つの新収蔵作品は、岡鹿之助の《セーヌ河畔》である。そういえば、ブリヂストン美術館で、この画家の回顧展がしばらく前にありましたね(記事は
こちら)。今回の作品は、一見すると、アンリ・ルソーの素朴画のようである。見る側も無心に受け止めることができる好作品である。ちょうどこの画の前で、旧知のブロガーの女性2名に遭遇して、一緒に観賞した↓。もちろん、ちょっとおしゃべりもした。
その後は、【山】、【川】、【海】という順序で、部屋別に、風景画が並んでいる。それぞれに名作ばかりだが、今回は雪舟の《四季山水図》に再会できた。ガラス張りなので写真がうまく撮れなかったので、プレゼン・スライドの写真↓で代用する。もちろん帰宅してから、石橋美術館の図録でジックリと見直した。ちなみに、この雪舟の絵は2006年の「雪舟からポロックまでー石橋財団50周年記念展」の際にも見ており、その時のHP記事は
こちらである。
【川】の部屋の出口の隅に、佐伯祐三の《テラスの広告》が淋しそうにしていたので、思わず写真を撮った↓。テーマの【川】とは無関係なのに、なぜここに展示されていたのであろう。佐伯祐三がここでも異邦人のように扱われていたとは思いたくないが・・・。
【静物】と【現代美術】は別室に展示されているので、見落とさないように注意。
自宅に帰って、1991年2月刊行の「ブリヂストン美術館 名作選」(↓左;これを1991年9月22日に買った時には6000円の大金をはたいた)と2004年4月刊行の「読む石橋美術館」(↓右)を引っ張り出して、今回の出品リストと比較してみた。
今回の展示品の中で、上記のカタログに収載されていなかったものは、現代美術以外の部屋では、95点中13点だけであった。さらに、これから新収蔵作品2点(
14,
73)、ピカソ2点(5,
89)、マティス(77)・モンドリアン(
78)・クレー(
79)などの現代美術作品7点を除くと4点だけ(1,
33,
35, 36,90,94) が上記の古いカタログに載っていない。一部はその後に収蔵された作品なのだろう。
一方、【現代美術】室の14点は、いずれも上記のカタログには載っていなかった。差し当たり、美術館のDBにリンクさせていただくが(
96,
97,
98, 99,
100, 101,
102,
103, 104, 105,
106,
107, 108,
109)、今回の展覧会にあわせて図録も作られたようなので、機会があれば見てみたい。
島田館長(写真↓中央)と親しくお話をすることができた。
ブロガーと美術館の関係についての考え方について、非常に前向きな意見交換ができたように思う。自分がこの美術館に孫と一緒に「マティスの時代」を見に来たこと(記事は
こちら)などもお話したが、子供の重要性については意見が完全に一致した。
このような機会を設けていただいた島田館長をはじめとする美術館関係者ならびにモデレーターのTakさんに厚くお礼を申し上げる。
なお、会場内での撮影は、美術館の許可を得たものです。美術散歩 管理人 とら