初代Android「G1」を試すコンパス連動のストリートビューが未来を先取り
(2008-12-02 01:46:27)
下一个
日経コミュニケーション編集部は,携帯電話事業者T-モバイルUSAが米国で10月21日に発売したスマートフォン「T-Mobile G1」(以下G1,写真1)を入手した。G1は,米グーグルが開発する携帯電話プラットフォーム「Android」を搭載する最初の製品である。入力手段,処理速度,アプリケーション・ソフトウエアなどについて,専門家と共に分析してみた。
G1を購入後,本体を箱から取り出して最初に気付くのは裏面にある「with Google」のロゴ。携帯電話事業者や端末メーカーを示す「T-Mobile」や「htc」のロゴよりも大きく,G1が“グーグルのモバイル端末”であることを強く意識させられる。
iPhoneほどは直感的に使えない
それ以上にグーグルの存在を意識するのが,ユーザー登録作業だ。G1を起動すると,まずAndroidのキャラクタ「Goody」が現れた。Goodyに指示されるまま画面をタッチすると次の画面では,Gmailのユーザー・アカウント(メール・アドレス)を入力するように求められる。アカウントを持っていない場合は,その場で新規登録できる(写真2)。つまり,G1はT-モバイルUSAの端末でありながら,グーグルのアカウント取得が必須なのである。
アカウントの入力を終えると,ようやくホーム画面が現れる。いくつかの画面をタッチして操作してみた第一印象は「米アップルのiPhoneほど快適に操作できない」というものだった。
携帯電話のソフトウエア開発を手がけるブリリアントサービスの杉本礼彦代表取締役は「複数あるユーザー・インタフェースの一貫性がやや欠けている」と指摘する。G1は,前面にある5個のボタンとトラックボール,〓非マルチタッチのタッチパネル,そしてQWERTYキーボードという,4種類の操作用デバイスがある。慣れないうちはどれを使って操作すればよいか戸惑ってしまう。1個のボタンとタッチパネルの操作を前提に設計されたiPhoneに比べ,直感的な操作という点では見劣りする。ただし,アプリケーションによっては多数の入力デバイスがあった方が便利な場合はあるだろう。
QWERTYキーボードは,小型ながらキーを押したときの感触がしっかりしている。ただし,コピー&ペースト機能は標準では見当たらない。さらに,現状では日本語表示はできるが入力はできない。多言語対応についてグーグルは,2008年中にドイツ語,2009年第1四半期に日本語や中国語繁体字などに対応するとしている。
ARM11ベースのCPUがアプリを高速処理
G1が搭載するCPUは,米クアルコムの「MSM7201A」である。これは「携帯電話のCPUとしてはかなり高性能」(ある携帯電話の開発者)なものだ。MSM7201AはデュアルコアのCPUで,内部に〓ARM11ベースのアプリケーション用コアとARM9ベースの〓ベースバンド用コアを備える。ARM11は,iPhoneなども採用する最新の携帯デバイス向けCPUアーキテクチャ。そのおかげもあってか,「G1のアプリケーションの動作は速い。サクサク動く」(ブリリアントサービスの杉本氏)。
専門家は〓ドライバなど低レイヤーの部分のソフトもよく作り込まれていると見る。「携帯電話は割り込み処理の動作でドライバの作り込みがだいたい分かる。G1は,アラームなど割り込みが発生する機能の動作が予想以上にしっかりしている。これはHTCのドライバがきちんと作られているから。ハードウエアにAndroidを単純に載せただけ,ではないようだ」(ある携帯電話の開発者)。
端末を動かすとストリートビューも動く
続いてアプリケーションを見ていこう。G1は購入時点で「Gmail」や「Browser」,「IM」(インスタント・メッセージ),「YouTube」など,インターネットのサービスを使うための様々なソフトが内蔵されている。この中で,G1の特性が生かせるアプリケーションと呼べる「Maps」(Google Maps)を使ってみた。
G1はGPS(全地球測位システム)や電子コンパス(地磁気センサー),加速度センサーを内蔵するため,地図アプリケーションを他の端末以上に活用できる。電子コンパスや加速度センサーがあるので,端末が向いている方向や端末の姿勢を検出できるからだ。
Mapsを起動すると,GPSが現在の位置情報を取得し,地図上に表示する(次ページの写真3)。ここで本体のボタンを押すと,「Search」,「Directions」,「Map mode」といったメニューが現れる。このMap modeには通常の地図のほか,衛星画像,トラフィック,そして〓話題となっている「Googleストリートビュー」がある。
携帯版のGoogleストリートビューは,G1だけが利用できる機能ではない。既にNTTドコモの携帯電話や「BlackBerry」などでも使えるほか,iPhoneも「iPhone 2.2」ファームウエアでサポートする予定。しかし,G1のGoogleストリートビューにある「Compass mode」は端末の姿勢に応じて画面が動くもので,今のところはG1だけの機能のようだ。現時点では,電子コンパスなどを内蔵する携帯電話は少ないので,同じような操作を他の端末ではできない。
Compass modeに設定すると,ユーザーがG1を向けている方向に合わせた街並みの画面が表示される。G1を動かすと画面もそれに追随する。画面の追随は360度方向である。Googleストリートビューに限らず,GPSと電子コンパス,加速度センサーを組み合わせることで,様々な位置情報サービスを実現できそうだ。
有害アプリの通知機能を用意
プリインストールされたアプリケーション以外も利用できる。グーグルは,Android端末向けのアプリケーション配布サービス「Android Market」を提供。ユーザーは同サービスからアプリケーションを自由にダウンロード可能だ。G1は,Android Marketを利用するためのソフト「Market」を標準搭載している。既にゲームやコミュニケーション,ニュースなどのカテゴリに分類された様々なアプリがあり(写真4,写真5),グーグルが開催したアプリケーション開発コンテスト「Android Developer Challenge」の入賞作も見付かる。
Android MarketはiPhone向けのアプリケーション販売サービス「App Store」に類似するものだ。App Storeと同様,アプリケーションに対する他のユーザーのコメントを読んだり,自分のコメントを投稿したりできる。ただし,App Storeのようにアプリケーションに対する審査がない。誰でもアプリケーションを開発し,Android Marketにアップロード可能だ。
こうなると何らかの問題があるアプリの登場が予測できる。そこでAndroid Marketは,「性的な内容がある」,「暴力の画像が含まれる」,「携帯電話やデータに害を与える」といった問題をユーザーが通知する機能を用意している。
Webブラウザからもダウンロード可能
アプリケーションのインストールは,Android Market経由以外でも可能だ。
まず,Webブラウザ経由でWebサイトから直接ダウンロードできる。Webブラウザでダウンロードする場合,Androidのインストール・パッケージ(.apkファイル)のリンクをクリックすると,自動的にダウンロードが始まり,G1に装着するmicroSDカードに保存される。ただし,初期設定ではこれらのアプリケーションを実行できない(写真6)。「設定」(Settings)の画面で,「Unknown sources」をチェックすると,Android Market経由以外のアプリを実行できるようになる。
これらとは別に,開発者向けの方法がある。〓デバッガを使えばUSB経由でパソコンからアプリを転送できる。G1の設定画面には「USB Debugging」という項目があり,これにチェックを入れると,パソコンからのアプリの投入と,G1上でのデバッグ作業が可能になる。
この機能を使うには,グーグルが用意する「Developing on Device Hardware」のWebページからWindows用ドライバを入手する必要がある。同機能によって,Androidの開発者キット(SDK)に付属するエミュレータ上で開発するのと同じように,実際の端末上でデバッグが行える。開発者にとっては極めて便利な機能だ。
microSDカードはアプリのストレージやキャッシュとして使われるほか,動画や音楽ファイルを保存すれば,G1で再生できる(写真7)。
このほかUSBポートがあり,充電はここから行う。パソコンとG1をUSBでつなぐと,パソコンからmicroSDカードにアクセスできる。
SIMロックがあり,ドコモのカードが使えず
G1本体裏側のカバーを外すと,バッテリとSIMカードが現れる(写真8)。試しに,NTTドコモのSIMカードを装着してみたが,SIMロックがかかっており通話や携帯電話のデータ通信機能は利用できなかった。
ただ,アプリの起動や無線LAN経由の各種サービスは問題なく使えた。T-モバイルUSAのネットワーク経由でGmailのアカウントを使った端末のアクティベーション(有効化)をいったん行えば,SIMカードなしでも通話以外の各種機能を利用できるようだ。
ユーザーの視点で見ると,G1にはGoogleストリートビューのCompass mode以外,これといって目新しい要素があるとは言い難い。一方,開発者の視点で考えると,各種の開発用ドキュメントが用意され,誰でも入手できる“オープン”な側面に加え,実機を使ったデバッグを行いやすい仕組みを用意するといった“開発者に優しい”特徴を持つと言える。
今後の注目ポイントは,Android Marketに登録されるアプリケーションの充実と,HTC以外のメーカーによる端末の品ぞろえが広がるかどうか,ということになる。
(中道 理=サンフランシスコ,武部 健一)
本文中〓の付いた用語を解説
非マルチタッチのタッチパネル=一度に1カ所のタッチしか認識できないタッチパネル。
ARM=英ARMが設計する,モバイル機器・組み込み機器向け32ビットRISC型CPUのアーキテクチャ。モバイル機器では圧倒的なシェアを有する。
ベースバンド用コア=無線通信の変調/復調処理を担当するCPU。
ドライバ=ハードウエアを直接制御するソフトウエアを指す。
話題となっている=道路に沿ったパノラマ状の風景を自由に閲覧できるサービスとして話題を集めると同時に,プライバシの侵害を指摘する意見がある。現在,議論を呼んでいる。
デバッガ=ソフトウエアの開発において,バグ(プログラムのミス)を分析するためのツール。
米サンフランシスコのT-モバイルUSAの販売店前でG1の販売開始を待つ行列
写真1 「T-Mobile G1」のホーム画面 台湾HTC製。キーボードを開くと画面の縦横が自動で切り替わる。サイズは117.7×55.7×17.1mm,重さは158g。
写真2 使用するにはGmailのアカウントが必要 G1から直接アカウントの作成が可能となっている。
写真3 キラー・アプリケーションと目される「Google ストリートビュー」 塔載する「Compass mode」では内蔵の電子コンパスなどと連動し,G1の動きに合わせてストリートビューで映し出される街並みの画像が変わる。
写真4 様々なアプリケーションをダウンロードできる「Android Market」 現在はすべて無料で入手できる。
写真5 Android Marketで入手した「パックマン」を動かした G1本体のトラックボールでも操作できる。
写真6 初期設定ではAndroid Market経由以外のアプリケーションのインストールをブロック 設定を変更することでWebブラウザからダウンロードしたアプリのインストールが可能になる。
写真7 microSDカードに保存したファイルの再生が可能 動画も再生できる。
写真8 バッテリとSIMカードを外したところ バッテリの容量は1150mAh。