2社のiPhone 4Sを徹底比較 “サクサク感”はKDDI、メール機能はソフトバンク
10月14日、ついに米アップルの新型スマートフォン(高機能携帯電話)「iPhone 4S」がソフトバンクモバイルとKDDIから発売された。同じ端末が2つの携帯電話会社から同時に発売されるのは日本では初めてのことだ。2つのiPhoneの料金や機能を比較したうえで、発売直後の週末に実際の端末を使って通信速度とエリアの差異を検証してみた。
■ネットワーク品質に自信を見せるKDDI
端末が一緒となると、競争ポイントは料金と通信エリア・品質になる。まず音声基本料金は、両社とも月額980円で電話会社内なら通話が無料となるプランがあり、ほぼ互角。パケット通信の料金ではソフトバンクモバイルの月額4410円に対し、KDDIは2012年1月末までの申し込みなら月額4980円(通常は5460円)という値付けで勝負してきた。それでも月額570円割高だが、これはネットワーク品質に対するKDDIの自信の表れだ。
KDDIは今回の導入にあたり「iPhoneにもっと『つながり』を」というキャッチフレーズを掲げている。ピーク値の最大通信速度では不利であるため、800MHz帯周波数を使うことによる「エリアの広さ」をアピールしているわけだ。KDDIのiPhone 4Sは800MHzと2GHzの2つの周波数帯に対応する。郊外などでは800MHzでエリアをカバーし、トラフィックが集中する都心部は2GHzで対応するのが基本的な考え方だ。
ソフトバンクモバイルはiPhoneでは2GHz帯周波数しか利用できない。1.5GHzも電波を持っているが、こちらは米グーグルの「Android(アンドロイド)」スマートフォンやポータブル無線LAN(WiFi)ルーターでしか採用できていない。iPhoneを全国で快適に使ってもらうには2GHz帯の基地局を整備する必要があるのだ。
W-CDMA方式のソフトバンクはiPhone 4S発売前の会見で、下り方向が最大14.4メガビット/秒であることを強調。CDMA方式のKDDIは下りが最大3.1メガビット/秒しかないため、「ソフトバンクの方がダウンロードが5倍近く速くなる」とコメントしていた。
果たしてソフトバンクとKDDIのiPhone 4Sは、つながりやすさとダウンロードスピードでどちらに軍配が上がるのだろうか。
■都内での通信速度は互いに譲らず
まず都内4カ所で速度測定アプリを使い、速度を実験してみた。結果はソフトバンクが速いところも、KDDIが速いところもあり、どちらかが圧勝とはならなかった。少なくとも、ソフトバンクがKDDIの5倍近くというスペック値ほどの圧倒的な開きはなかったといえる。ソフトバンクの方が速い数字をたたき出すことはあるが、KDDIも負けていないという印象だ。
実際にウェブページを見ていて感じたのは、最初の表示が出てくるのはおおむねKDDIが速く、後から遅れるようにソフトバンクが表示を始める例が多かったこと。測定結果を見ても、レイテンシー(遅延)の値はKDDIが圧倒的に小さい。
つまりページ内のリンクをタップすると、KDDIは遅延が小さいため、すぐに反応して表示が始まるのに対し、ソフトバンクは表示の開始は遅いもののスループットが高いために巻き返して一気に表示するという感じを受けるのだ。「操作するとすぐに反応してくれる」という面では、KDDIの方が気持ちよく操作できる印象を持った。
携帯電話の通信環境は、人が多く集まる場所で著しく低下する。そこで15~16日に国内最高峰の自動車レース「スーパーGT」の最終戦が開催された「ツインリンクもてぎ」(栃木県茂木町)で実験してみた。主催者が発表した16日の来場者数は2万6000人。サーキット内は広いため、友人を探すのに携帯電話を使う機会が多い。レース前は暇な時間も多く、スマートフォンでネットを使う人をよく見かける。
レース前に通信速度を測定したところ、下りの通信速度はソフトバンクが平均1179キロビット/秒でKDDIが404キロビット/秒。都内などに比べると平均値が下がったようだ。併せて通話実験もしてみたが、どちらも快適に発信・通話ができた。
■圏内で発信してもつながらないソフトバンク
都市圏に住むユーザーが通信エリアで不満を感じるのは、郊外などに出かけたときが多い。そこで、栃木県の山あいで両社のエリアの差異を試してみた。
向かった先はツインリンクもてぎからクルマで5分ほどの距離にある旅館。エリアマップで確認すると、両社の圏内ギリギリのところに建っている。都心から3時間ほどの距離で、イベント施設の近くのため宿泊客もいる。
実験では、時報(117)に発信し、60秒間時報を聞く。その後で切断し30秒後に再び時報につなぐという手順を20回繰り返した。きちんとつながるか、60秒にわたって途切れないかを見るためだ。
15日18時ごろに実験したところ、KDDIは20回すべてでしっかりと発信でき、60秒間途絶えることなく時報を聞くことができた。これなら通話は全く問題ないといえるだろう。
一方のソフトバンクは端末が電波をつかんだ「圏内」状態で発信してもいっこうにつながらなかったり、つながるのに50秒近くかかったりした。発信中に「圏外」表示になったり、圏外でもなぜかつながったりするケースも見られ、20回のうち10回しかちゃんと通話できなかった。
実験現場ではiPhone 4Sは圏内となっていても、iPhone4では「検索中」の文字がでて、iPhone3GSではずっと「圏外」表示が出ていた。同じソフトバンクだがiPhone 4Sのほうが電波環境が厳しい場所でも受信しやすい設計になっているものと思われる。
通話品質の高さを証明したのがKDDI。20回のうち2回は圏外でかからなかったが、通話がつながるとほとんど途切れることなく、無音になったのは1秒間だけで、発信・通話・切断を繰り返すことができた。
ソフトバンクも圏外でかからなかったのは同じ2回だったが、通話中に無音になったり、通話が途中で切れてしまったりする現象が4回みられた。このあたりは800MHzと2GHzという周波数帯の差が出てしまったのかもしれない。
速度測定アプリを使い各地で測定した数値の平均値。数値が低いほど遅延は小さい
■周波数帯の違いがつながりやすさの差に
それでは移動時、とりわけ電波が弱いとされる郊外の道路での通話品質はどうなのか。常磐自動車道の水戸北スマートインターチェンジから、ツインリンクもてぎに向かう1時間弱の道のりで、2つのiPhone 4Sを使って発信・通話・切断を繰り返して調査してみた。
■KDDI版はテレビ電話やメールなどに注意
ソフトバンク版と同時に発売となったKDDI版iPhone4Sだが、対応していない機能がいくつかある。例えばiPadなどのiOS搭載端末やMacのユーザーとテレビ電話を楽しめる「FaceTime」には対応していない。テキストメッセージを交換できる「iMessage」も非対応だ。これらの機能は「ソフトウエアアップデートでいずれ対応させる」(KDDIの田中孝司社長)という。
正式発表前に懸念されていた、「@ezweb.ne.jp」というアドレスを持つキャリアメールは何とか使えるようになっている。しかし15分間隔で自動チェックする仕様のため、リアルタイムにメールを受信できないことがある。メール機能を開けばすぐに確認できるが、タイミングによっては相手が送った直後に受信することもあれば、15分後になることもある。
実際に使っていて不満に感じるのはezweb.ne.jpメールが、PCメールと同じ扱いになるため、受信していることがわかりにくいという点。緊急のメールでも受信していることに気がつきにくいのだ。
その点、ソフトバンク版のキャリアメールはMMS(マルチメディア・メッセージング・サービス)の扱いになる。待ち受け画面上に受信したことが表示されるため、気がつきやすい。KDDIもMMSへの対応を準備中とのことなので、早期に改善を望みたい。
さらにKDDI版は音声通話をしながらデータ通信ができない。「相手と話しながら地図を調べる」あるいは「話しながらネットで調べ物をする」といった使い方はできないので注意したい。
実際に試してみたところ「通話中はモバイルデータ通信を利用できません」というメッセージが表示された。「通話しながらのネット利用」にどこまで需要があるかわからないが、必要とするユーザーはソフトバンク版を選んでおくのがいいだろう。