iPhone、中国で旋風?――アップル、ノキアの牙城攻略へ
(2008-07-16 19:36:41)
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2008/07/16, 日経産業新聞
発売前から「密輸品」 複雑な流通、販路確保カギ
十一日の発売から三日間で計百万台が売れた米アップルの「iPhone(アイフォーン)3G」。世界二十一カ国・地域では若者らが長い列をつくった。次の焦点は五億人の利用者を抱える最大市場の中国。携帯電話シェアで世界最大手、ノキア(フィンランド)の牙城を崩すか。向かうところ敵なしのアップルにとっても新たな挑戦となる。
「アイフォーン格好いいだろ。買ったら人気者になるよ」
中国のシリコンバレーと呼ばれる北京市の中関村。ノキアなどの直営店が軒を並べる通りは、大学生らでいつも活気にあふれている。その一角にある雑居ビルに足を踏み入れると、「黒机」と呼ばれる非正規品を扱う販売員がこんな声をかけてきた。
中国ではアイフォーン3Gはまだ発売されてない。だが、米国からの「密輸入品」は簡単に手に入る。ソフトウエアに改良を加え使えるようにした製品の価格は四千元(六万二千円)程度が相場だったが、最近になって急騰した。
闇市場での人気に火をつけたのが香港での売れ行き。日本とおなじ十一日にアイフォーン3Gが発売されると、香港では六万件超の予約が殺到。発売直後のネットオークションでは二十万円以上の値段を付けた。中関村では五千五百元以上で取引されているという。
中国政府は北京五輪を前に知的財産権保護などの取り組みをアピールするが、「黒机」を取り締まるのは容易でない。密輸入品のほか、「NOKLA」、「SAMSONG」ブランドの携帯も平気で店頭に並ぶ。ニセモノは本物の半値以下の価格が魅力で、正規品の価格下落要因にもなる。中国語で「山寨机」と呼ばれ、深〓などにある中小電機メーカーが、周囲から電子部品を買い集めて勝手に製造したものだ。
加入者5億人超
中国の二〇〇七年の携帯電話機販売台数は約一億五千万台。このほかに「黒机」の年間市場規模は三千万―四千万台規模に達し、市場全体の四分の一を占めるとされる。
そんな魑魅魍魎(ちみもうりょう)がはびこる中国市場は、携帯電話加入者が五億人を超えた今も販売台数が年間二ケタ成長を続ける。「数量が多いだけに、世界メーカーになるために中国市場は避けて通れない」(日本メーカー幹部)。日本勢ではこれまで松下電器産業やNEC、京セラなどが挑んだが、ことごとく失敗した。中国では「流通ルートが複雑で、販路をどう開拓するかが重要」(電機メーカー幹部)という。
そんな先達の失敗をよく研究して中国市場に参入したのがシャープ。まず中国の携帯電話の流通経路別シェアで四割弱を占める携帯電話販売チェーンの最大手、迪信通と提携した。中国全土に千店舗以上を展開、二〇一二年には五千店舗への拡大を計画している成長株と手を組んだ。
今後、薄型テレビ「アクオス」の販売で協力関係にある家電量販店の国美電器や、携帯通信会社最大手の中国移動(チャイナモバイル)とも提携することを検討中だ。中国移動との提携ではソフトバンクの孫正義社長が仲介に動いているとされる。
中国移動と交渉
ノキアもサムスン電子も、携帯電話の営業所を津々浦々に構える中国移動との連携を生かし、シェアを伸ばしてきたというのが定説。携帯電話市場のキープレーヤーであり、アイフォーンを発売するとみられているのも中国移動だ。
「アップルとの交渉で最大の障壁はなくなった」。中国移動の王建宙最高経営責任者(CEO)は六月下旬、こう明言した。利益の配分比率をめぐるアップルとの交渉がヤマを越したもようで、発売は年内とみられている。近く詳細を発表する可能性が高い。まずは第二世代の機種を投入し、通信網の整備が進みつつある第三世代に移行する計画が有力視されている。
「スマートフォンと名乗ってはいるが、それほどスマート(賢い)ではない。使いやすくもない」――米アップルのスティーブ・ジョブズCEOはこう言ってノキアやモトローラなど、携帯端末でシェア上位につける有力メーカーの製品を容赦なく切り捨てる。パソコン並みのOS(基本ソフト)を備え、洗練されたデザインや操作方法が売りのアイフォーンへの自信が背後にある。
正式販売となれば中国でもアイフォーンがヒットするのはほぼ確実だが、アップルには新たな挑戦でもある。同社の経営の足場は先進国に偏り、新興市場の本格的な開拓はほぼ手つかずだからだ。例えば、世界に約二百ある直営店。大半が米国に集中し、残りは日本や欧州にある。ヒューレット・パッカード(HP)やデルなどのように中国、インドなど新興国でこつこつとパソコン販売などを積み上げる泥臭いビジネスは苦手だ。
中国市場ではタッチパネルを採用するなど、アイフォーンに意匠がよく似た製品もあふれ始めている。圧倒的な商品力だけでシェアを奪えるほど中国はなま易しい市場ではない。洗練されたマーケティング力が中国でも通じるか、その答えはもうすぐ出る。
(北京=多部田俊輔、シリコンバレー=村山恵一)