窓のすぐ外に金木犀の大きな木があるので、毎年この時期になると一日中甘い香りに包まれる。その香りに誘われて、去年の同じ時期の自分を思い出す。金木犀の香りは毎年変わらないのに、その香りに包まれる私の心境は、去年同じ金木犀の香りに包まれていた時とはずいぶん様変わりしている。すると今度は、変わらないはずの香りがなんとなく去年と同じ香りとは思われなくなってくる。 こんなことを考えていたら、ある和歌が思い浮かんだ。これは少し違って、自分の心は変わらないのに、という歌だけれども。
月やあらぬ 春やむかしの 春ならぬ わが身ひとつは もとの身にして
在原業平『伊勢物語』
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